夜中に訪ねてきたその傲慢な男は、傲慢な口調と態度は変わらずに、ただその表情だけが固く強張っていた。

「何があった」

 気付かぬ振りをするには、関係が深すぎた。自分の本当の性別を知る者は、さほど多くない。ジークフリードはその数少ない人間のうちの1人だった。ネブラは周囲に誰もいないことを確認し、偽りの姿を取るのを止めた。相手がその姿を好まないこと知っていたし、ただでさえ不機嫌な相手を触発させるほど、気力があるわけでもない。

「何も」

 言葉少なにジークは首を振った。眼を合わせようとしないのだけが、ただ明確な違和感をもってネブラに訴えかける。何故私はこの男を気にしているのか、とネブラは自問する。落ち込ませておけばいい、根性の悪いこの男が大人しいことなど、人生に何度お目にかかれることやら。一方的に幼少期の弱みを握られていることを、この際白紙にしてしまえばいいのだ。
 対応に逡巡している間、ジークは黙りこくっていた。何を企んでいる、という気配もない。そもそも、この男は姦計の類を使おうとしない程度には気位が高い。突発的な行動にさえ気を付けていれば、害を被るようなことはない―――そう、どちらかといえば、昔から自分の方が迷惑をかけていたような気がする。

 ネブラは小さく息をついた。
 急な抱擁で肺が圧迫されたこと、が原因というわけではない。

 そのまま、時間もこちらの都合も気にせずに訪れた男の体温が、やはりネブラの心情も酌まず離れたとき、ネブラはふと、この男は寂しいのではないか、と思った。

「寄っていけ」

 ジークの暗い瞳がこちらを見下ろす。この男相手に貞操を気にしなくていいときが来るとは思わなかった、とネブラは肩を竦めた。

「お前のせいで目が覚めた。拒否するなら大声を出してやる」


 酷く顔をしかめた幼馴染を見て、ようやく安心する。
 甘え方を知らない男というのは、手がかかるものだ。
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