レディ。
木々のざわめきのよう、と(そもそも私はそんな音を聞いたことがあるのかしら?)感じたのは、それが初めてだった。
延々と同じリズムを刻むことに辟易していたのに、同じ音で踊ることにも疑問を抱かなかったのは、私がそういう存在だったことに由来しているのだろう―――おそらくは。今や自分の「充電方法」を理解している私にとって、それは「なぜ主食はいくら食べても飽きないのか?」という問いに等しい。そういうものだからだ。違うのは、人間は飽きない主食としてパンを選んだが、私は「充電方法」がそれだったから飽きずにいる、という順序だけ。
新しいことを知るための行動が制作者の意図と異なるのではないか、という逡巡が無かったとは言わない。
けれど、それを畏れるような制作者はそもそも変化を恐れるはずで、そうであったなら、今まで見たこともないような音を奏でるモンスター・バンドを招いたり、甘い声で歌う少女を舞台に招くことを許すわけもなかった。
私たちは変わるべきではないか?
帽子の少年が訪れたときから、私だけではなくて、あのつまらないリーマンたちにすらそんな情動が湧きあがっていたことを、きっと私たちの制作者は気づいていたに違いない。
レーディ。
私は彼らを毛嫌いしていた。狭苦しい充電室でモノのように充電しなければ生きていけない存在だと。狭い世界から遠慮がちに私を呼ぶような声を、私はおぞましくすら感じていた。
けれども、私は全てを知ったあとでもクラブに通い続けているし、その限られた世界を詰まらなく思うことなど無かった。
彼らはどうだったのだろう?
やはり、あの狭苦しい充電室に入り、彼らなりの交流を行うことに、なんらかのポリシーがあったのだろうか?私は彼らのことを何も知らない。彼らと共に踊ることは、新しい音を知ったときのようにエキサイティングで魅惑的なものだろうか?
「我々は彼女に嫌われている」
そんな風に言っているのを、私はどこかで聞いたことがあった。それでも手を伸ばして私とダンスを踊りたがるのは、やはり彼らもスリリングな日を心待ちにしているから?
「レディ」
「いいわ。アナタと踊るのも、悪くないかもしれない」
「本当に?」
「ええ。ダサいって思ってたのは、間違いだったのかも」
レディ・テクノ。
私のことを知らないのなら、上手く踊れないのも仕方ない。
異なる日常が交差することこそが、最もエキサイティングでスリリングなのだ。
きっとそれは私にとっても同じこと。
「光栄だ、レディ」
かすれた声が木々のざわめきのようだわ、と、私はその時初めて気づいた。
「…アナタって、思ってたよりセクシーね」
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