何故そこに置いてあるのか全く理解できないものたち―――未来を知る彼はその魔法陣の描かれた羊皮紙をクラシックな手段と断じ、過去をさ迷う彼は何と洗練されたデザインなのかと感嘆した―――をかきわけ、あまり使用されたあとのないベッドの見つけ出すと、ネブラは久々の柔らかな感触を思う存分楽しむことにした。少々埃っぽいのが難だが、彼の意識上では実に数日ぶり(とはいえ、永遠をさ迷う彼にとって数日という区切りはさしたる意味もないことであり、どちらかといえば頻繁に寝すぎである)の再会である。
細かいことには目をつぶって、今はシルクの冷たさと羽毛の柔らかさに全てを委ねるべきだろう。
自然とほころぶ口元を抑えることなく、ネブラはモフモフとした喜びを全身で享受して。
そのまま我がもの顔で寝た。
「ええー…」
そんなわけで、数日ほど資料探しの旅に出かけていたファウストが部屋のドアを開けた直後に頭を抱える羽目になったのは、全てベッドの魅力が悪いのであってネブラに罪は全くないのである(ネブラの意識上では)。
確かに、器具や資料が散乱した部屋はファウストにとっては秩序ある混沌であり、ベッドの上のそれらも彼が意図して並べていたものには違いなかった。例えば、要求魔力順であったり、構築された年代順であったり。ネブラは同じ分野を修めたものとしてなんとなくそれを理解していたし、ファウストがそうしていることは想像に難くなかった。が。
「…でもそれは寝具への冒涜だと思うんだ、私は」
「いつアンタは死より寝具を愛するようになったんすかね先輩」
未だ意識の半分くらいを睡魔に蹂躙されているネブラは、もごもごとしたはっきりしない調子でファウストの苦情に口答えした。勿論、眼はしっかりと閉じられているし、体は当然のように毛布にくるまったままである。
けれど、彼の精神はずっと『向こう側』にあったので、彼は幾ら眠くとも真実を見失うことはしなかった。
「…そのどちらとも同じくらい、お前が好きだよ」
さあ、だから、参照すべき資料はめちゃくちゃになってしまったし、揃えるのだって時間がかかる。後でちゃんと手伝ってやる。
どうせ寝てないんだろう。
「……だから一緒に寝よう」
ぱち、と目を開けた先には、いつもより隈を濃くした陰気な男。ため息ついてローブを脱ぐのを見守って、ネブラは両手を広げた。
おかえりファウスト。
スポンサードリンク