どうも一人上手の男、ジャックたんです。
あ、一応注意させていただきますと、いやらしい意味じゃないです。俺そういうの苦手なんで。そんな目で見ないでください。マジです。
真っ青な空が気持ちいい朝だった。
たった一人でもその死に涙する奴がいるなら、俺も上等な人生を送ってきたのかもしれない、とかちょっと殊勝な気分になっちゃう秋の空。まだ葉が落ちるには早く、でも夏というには少し風が冷たい。実際のところ、ジャック・グレイスが今度の冬を越えることは困難だった。夏の間は食料もあったし、防寒具の類も必要なかったが、冬になればそうはいかない。魔術の発展で大昔に比べれば人間の生活は大きく発展したが、それでもまだ、冬季の食料の高騰を抑えるまでには至らない。もしそこまでしぶとく生きながらえていたとしても、俺は神父にヒトを切り捨てる痛みを与えながら死んでいっただろう。
さて問題です。ここで神父に汗をかかせつつ土に埋まるやせ細ったジャック・グレイス(in棺)を見つめている俺は一体誰なのでしょうか。
答えは、俺も知らねェ。
外観は、異国の女、っつう奴。肌は浅黒く、顔立ちはやや幼げ。瞳に至っては金銀妖瞳ときた。付け加えておくなら乳はでかめだが、まあ自分についてると大した衝撃でもないもんだねコレ。
んで中身はご覧の通りの有り様です。人のことをこき下ろす語彙には事欠かない、みんなの友人☆ゲスだよ!健康な体を得たわりにはヒトに対して相変わらずの偏った愛情振りまいてますし、我ながら末期というか救いようのないゲスです。知ってたけど傷つくわー。
ひょんなことから、つうのか、まあこの女がそういう術を持ってたらしく、俺はボロボロの体を捨てて新しい体を手に入れたという寸法な訳だ。捨てる神あれば拾う神あり、拾ったのが邪教の神ってのがどうにも心地の悪いとこではある…が、教会の敷地にあって体が焦げるとかそういうことは無いみたいなので、今のところは気にしない。
とにかく、そんな風にして俺はかつて俺だったものの葬式に立ち会うことができている。参列っつうか…列出来てねェからなあ。
「ありがとうございます」
涙一つ見せない俺にむかって、作業を終えた神父が震える声で頭を下げた。おいおい爺さん頑張りすぎ。年寄りなんだから無理すんなって。俺は手伝わないけど。
「いえいえ」
俺はなるべく神妙に見える口調で首を振った。「お世話になりましたから」…短い付き合いだったが、愛着が無いといったら嘘になるからな。俺の体のことですよ?
爺さんはぽつりぽつり、と俺にも覚えのある思い出話をした。餓鬼のころ、神父のツテを頼って転がりこんできた時のこと。病に冒される前の馬鹿丸出しだった頑張りっぷり。倒れてからの、諦め。良くまあガチガチに固まった脳髄でこれだけ記憶してたもんだ、とため息をついてやりたくなるほどの羞恥プレイに、俺はバリバリと頭を掻きまわしたくなる衝動を必死に堪えなければならなかった。
それから少しだけ、女のツラを被ってきたことへの、「やっちゃったなー」感。まあ、神父的に言えば堕落しちゃったとも捉えられかねない現状を知らせるのもね、どうかと思いますけどね。
二つ目のありがとう、を聞く前に、俺は話を切り上げて学院へ向かうことにした。(チェストの中の全財産についてさり気なく触れることは忘れない俺、ちょうえらい)
生身で向かうのは実に数年ぶりになる。知識として、間接視覚で知っている様々な変化―――店が変わってたり、道が増えてたり、そんなことを楽しみながらの道行きは、久々に気分を晴れやかにした。天気もいいし、風は涼しいし、何処かが痛いわけじゃないし。
で、まあ、その、気分が良かったんでね。
気付いちゃったつうか、なんつうか。
俺の葬式、結構悪くなかったんじゃない?と。
俺みたいなカス&ゲスみたいな男がそこそこの葬式を迎えられちゃった以上、それなりの流れとして、まあ、それ以上の葬式を迎えるべき奴がいるじゃん、とかそういうことにね。ええと。気付いちゃった訳ですよ。天気いいし。空高いし。鳥とか鳴いてるし。本当はこれを捧げられるべき人間ってのが、いたはずじゃないか、と。
「…そういう訳でね、ここまで来たわけですよ俺は」
「ごめ、なさいごめんなさいごめんなさいもうしないからごめんなさ、」
「うん、覚えてられると困るからいいんですけどね」
そういうわけで。
最後のひとりから目の光が奪われるに至って、ジャック・グレイスによる誰かさんへの追悼式は完全に終了した。
だって俺いま無一文だし、この体は貰いものだし、あいつ宗教ちがったっぽいし。ジャック・グレイスが持つ唯一のものっていったら、これくらいしかないじゃない。
「ななうー、こいつらチョロすぎだぞー」
誰かの口調を誰かの声で(再現度低めに)真似しながら。
ひとりの人間を死に追いやったモノたちが言葉だけで崩壊していくのはなんだか無様この上なくて、俺はとことん空しくなったのだった。
あ、一応注意させていただきますと、いやらしい意味じゃないです。俺そういうの苦手なんで。そんな目で見ないでください。マジです。
真っ青な空が気持ちいい朝だった。
たった一人でもその死に涙する奴がいるなら、俺も上等な人生を送ってきたのかもしれない、とかちょっと殊勝な気分になっちゃう秋の空。まだ葉が落ちるには早く、でも夏というには少し風が冷たい。実際のところ、ジャック・グレイスが今度の冬を越えることは困難だった。夏の間は食料もあったし、防寒具の類も必要なかったが、冬になればそうはいかない。魔術の発展で大昔に比べれば人間の生活は大きく発展したが、それでもまだ、冬季の食料の高騰を抑えるまでには至らない。もしそこまでしぶとく生きながらえていたとしても、俺は神父にヒトを切り捨てる痛みを与えながら死んでいっただろう。
さて問題です。ここで神父に汗をかかせつつ土に埋まるやせ細ったジャック・グレイス(in棺)を見つめている俺は一体誰なのでしょうか。
答えは、俺も知らねェ。
外観は、異国の女、っつう奴。肌は浅黒く、顔立ちはやや幼げ。瞳に至っては金銀妖瞳ときた。付け加えておくなら乳はでかめだが、まあ自分についてると大した衝撃でもないもんだねコレ。
んで中身はご覧の通りの有り様です。人のことをこき下ろす語彙には事欠かない、みんなの友人☆ゲスだよ!健康な体を得たわりにはヒトに対して相変わらずの偏った愛情振りまいてますし、我ながら末期というか救いようのないゲスです。知ってたけど傷つくわー。
ひょんなことから、つうのか、まあこの女がそういう術を持ってたらしく、俺はボロボロの体を捨てて新しい体を手に入れたという寸法な訳だ。捨てる神あれば拾う神あり、拾ったのが邪教の神ってのがどうにも心地の悪いとこではある…が、教会の敷地にあって体が焦げるとかそういうことは無いみたいなので、今のところは気にしない。
とにかく、そんな風にして俺はかつて俺だったものの葬式に立ち会うことができている。参列っつうか…列出来てねェからなあ。
「ありがとうございます」
涙一つ見せない俺にむかって、作業を終えた神父が震える声で頭を下げた。おいおい爺さん頑張りすぎ。年寄りなんだから無理すんなって。俺は手伝わないけど。
「いえいえ」
俺はなるべく神妙に見える口調で首を振った。「お世話になりましたから」…短い付き合いだったが、愛着が無いといったら嘘になるからな。俺の体のことですよ?
爺さんはぽつりぽつり、と俺にも覚えのある思い出話をした。餓鬼のころ、神父のツテを頼って転がりこんできた時のこと。病に冒される前の馬鹿丸出しだった頑張りっぷり。倒れてからの、諦め。良くまあガチガチに固まった脳髄でこれだけ記憶してたもんだ、とため息をついてやりたくなるほどの羞恥プレイに、俺はバリバリと頭を掻きまわしたくなる衝動を必死に堪えなければならなかった。
それから少しだけ、女のツラを被ってきたことへの、「やっちゃったなー」感。まあ、神父的に言えば堕落しちゃったとも捉えられかねない現状を知らせるのもね、どうかと思いますけどね。
二つ目のありがとう、を聞く前に、俺は話を切り上げて学院へ向かうことにした。(チェストの中の全財産についてさり気なく触れることは忘れない俺、ちょうえらい)
生身で向かうのは実に数年ぶりになる。知識として、間接視覚で知っている様々な変化―――店が変わってたり、道が増えてたり、そんなことを楽しみながらの道行きは、久々に気分を晴れやかにした。天気もいいし、風は涼しいし、何処かが痛いわけじゃないし。
で、まあ、その、気分が良かったんでね。
気付いちゃったつうか、なんつうか。
俺の葬式、結構悪くなかったんじゃない?と。
俺みたいなカス&ゲスみたいな男がそこそこの葬式を迎えられちゃった以上、それなりの流れとして、まあ、それ以上の葬式を迎えるべき奴がいるじゃん、とかそういうことにね。ええと。気付いちゃった訳ですよ。天気いいし。空高いし。鳥とか鳴いてるし。本当はこれを捧げられるべき人間ってのが、いたはずじゃないか、と。
「…そういう訳でね、ここまで来たわけですよ俺は」
「ごめ、なさいごめんなさいごめんなさいもうしないからごめんなさ、」
「うん、覚えてられると困るからいいんですけどね」
そういうわけで。
最後のひとりから目の光が奪われるに至って、ジャック・グレイスによる誰かさんへの追悼式は完全に終了した。
だって俺いま無一文だし、この体は貰いものだし、あいつ宗教ちがったっぽいし。ジャック・グレイスが持つ唯一のものっていったら、これくらいしかないじゃない。
「ななうー、こいつらチョロすぎだぞー」
誰かの口調を誰かの声で(再現度低めに)真似しながら。
ひとりの人間を死に追いやったモノたちが言葉だけで崩壊していくのはなんだか無様この上なくて、俺はとことん空しくなったのだった。
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