どうにかしないとなー、って思いながらなんとなくそのまんまにしてることってない?例えば壊れたアクセサリーとかさ。別の部品をつければ使えるんだろうけど、それがもともと他の人の手作りだったとしたら、新しい部品を自分で付け加えるのはなんだか台無しにしてしまうみたいで、壊れたまま、チェストの上で置物代わりになっているとかそんな風に。
俺の父さんもそんな感じの思い入れがあったらしいんだな。うん、未だにあの人アホだろって思ってんだけど、椅子なんだよ。食卓の椅子。足が若干すり減ってて、ちょっと身動きするたびにガタガタ言うんだわ。でも直さねーの。
俺が子供のころ作った椅子だったのね。で、買い換えろとか直せとか言ってたんだけど、全然だめで。いつかケガするっつても聞かねえの。
自分で言うのもなんだけど、俺けっこう可愛がられてたのね?ほら見るからに俺イケメンじゃん?あ、そうでもない?じゃあほら気だてがいいから。…ごめんごめん、ほんとのこと言うとほら、一人っ子の長男だから。ありがちでしょ。
で。父親が樵だったわけ。知ってる?アレさ、木材って出荷するときいらない枝とか全部切っちゃうの。で、子供の俺は近所の爺さんに教えてもらって、その端材で椅子作ったってわけ。父の日かなんかに。
リアクションも大して無かったくせにいつまでも使ってんのね。
でも子供ってさあ、作るのはともかく直す技術って無いじゃん?だから気になってたんだけど、どうしようも無かったってわけ。
うん。そう。
だからどっかの技術を身につけるなら、家具職人がいいかなーって。
そう思って、今の道に来たんだ。
思い起こすのは、夕食のときに何度も座り直していた父の姿だ。
「なに、惚けなくて済みそうだからな」
なかなか子供が出来なかった両親は、普通の子が持つ親よりも少しだけ年齢を重ねていて、だからそんな老人のような冗談も良く口にしていた。カタカタと音が鳴る椅子の脚は、今思えば彼の体重で歪んでいたのだろう。元が端材、正規の工程を経ずに乾燥されなかったそれは、放置するだけでも罅が入っていたはずだ。
胡桃を浸けた酒をちびりちびりとやりながら、軽い音が鳴る椅子の上、大人たちから聞いた話を家族に聞かせるのが好きだったようだ。彼には何度か父の揺れる膝に乗ってそれを聞き流していたような覚えがあった。
いつか、直してやろうと思っていた。
真っ先に失われたのは、その椅子だった。
いつものように父の話を聞いていた彼と、母との前で、ぐらりと父の上体は傾いて―――そのまま二度と起き上がらなかった。
あわてふためく母の姿より、息を荒げ胸を抑える父の姿より、父と共に倒れ支柱が砕けた椅子が、脳裏に鮮明に焼き付いている。
(もう直せない)
彼の内で失われたものの象徴を果たしたそれは、村と共に灰となった。
彼は村を愛していたし、恐らくは村も彼を愛していただろう。
けれど、その椅子は充分に彼の想いを注がれずに終わったので、彼は村を惜しむのではなく、椅子を作ることにした。
スポンサードリンク