月の光と肥沃な土地とで育つ銀の花弁は熱病に良く効く。
複雑に絡み合った蔓はこのあたりの湿気た風を好み、傷をつければ豊富な栄養を含んだ乳液を流す。
いかにも毒々しい赤い棘をもった茨は、その棘をすり潰して傷口に摺りこめば治りを早くする効能をもつ。

それらはみな、ひとを呪うための呪具。
薬は過ぎれば毒と成りうるが、毒は及ばなければ薬と成り得るか?



「人生、何事も無駄にはならないと言いますが、今さらながらに実感しますね」
「後悔してない?ここに来たこと」
「いいえ。毎日楽しいんです。ナナウさんといられて、本当に嬉しい」

 呪術を学ぶ副次的な知識であったはずのものが、『非力』な少年を薬師の青年へと変えた。それは青年にとって、事実以上に意味を持っていた。

「今日のごはんはなんですか、ナナウさん」
「何がいい?ダリが好きなものでいいよ」

 ようやく、巫女である妻の隣に並び立つことが許された、と、青年は思った。来たばかりのときには、庇護を受けるばかりであった少年を厳しい目で見る男の姿は少なくなかったのだ。それは幾ばくかの嫉妬を交えた感情であったのかもしれないが、少なくとも、「妻」を守るに値しない男である、という評価を受けていたことは、間違いのないことだった。
 今はもう、胸を張って言える。
 自分は妻を守る戦士であり、村の一員であるのだと。

「…んー、じゃあ、学校にいたとき、初めて作ってくれたやつがいいです」
「うん、わかった。じゃあ、ダリはお仕事頑張ってね」

 村を示す狼煙の方へ駆けていく背を眺め、青年は眩しそうに目を細めた。


「…本当に。何事も無駄にはならないものですね」

 息抜きは終わり。背が見えなくなったのをきっかけに、彼は再び薬草園を耕す作業へと戻った。青年の腕から幾つも伸びた管が、地中の肥料の様子を細かに伝える。栄養状態に問題は無し。少々、発狂している者も出始めているようだが、それは潰して土に均してしまえば良い。
 全く、村を襲う不埒な輩でさえ薬になるのだから、とかくこの世は上手く出来ているものだ。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。