・悪戯一択(アルダバラン×ルーファスィール)
・モブたちの平凡な話(ジャック×セリゼ)
侵食(ディーマガランス×クラウディオ) : 雰囲気グロなのでリンク先参照

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・悪戯一択

闇夜に差す月は薄い布越しにどこか柔らかい。蒼き月の光は刃の閃きを染め、音も無く忍ぶものの怜悧な横顔を映した。

「何の真似だ、そりゃ」

閨から跳ね起きた精悍な裸身はいっとき前まで夢にいたものとは別人の様に、きりきりと充ちる殺気に引き絞られ、猛禽のそれを思わせる鋭い眼は真直ぐに相対するものを見据えていた。

「お前こそ」

ふ。襲撃者の硬く白い表情に初めて浮かんだ表情はといえば、ここ数年で柔らかくなったものではなく、笑み、を模倣した仮面を張りつけた人形が如き冷たさであった。

「ワタシ以外の剣を握るとは、なかなかの尻軽ではないか」
「いやそれどう考えても今のお前に言えたことじゃ…うぉわッ!?」
「口答えはいい」

低い声と共に飛来した銀色を、大振りのナイフで弾き返したルーファスィールは、未だ見えぬ右手に隠された武器を警戒しながら蹴りを贈ろうとして―――僅かな躊躇いののち、とうとうそれは、叶わない。

ごうん、と、重いモノが叩きつけられた音を響かせて。彼らは板張りの床の上に、転がった。

「ただ、お前は答えを選べばいい。“Trick or Treat?”」

いや、現状あきらかTrick以外の何ものでもねーだろ、口の中に南瓜羊羹を突っ込まれながらルーファスィールはもごもごと口を動かした。ルーの顎が軽く触れるたび、エプロン一枚越しの白い乳がたゆん、と揺れる。

弾かれて落ちた包丁とナイフが自重に負けて地に倒れるころ、蒼い影ふたつは言葉もなく手を伸ばし合う。



・モブたちの平凡な話

さてここに平凡な男と女がいる。彼らは平凡という他ない、特徴のない男と女だ。強いて言うならば男は死にかけていて、女は少々色々とあっさりしすぎる傾向にある。更に言えば、彼らは少しだけ傷ついていた。少しというのは、つまり、彼らは特徴のない自分たちをよく分かっていて、だがそれ故にそのことを気にしている節が、あったので。

彼らが気まずい空気を味わう羽目になったことの始まりはこういうことだ。女は、女同士の付き合いという奴でキッチンを借りてクッキーを焼いた。自分一人で消費するのには少し物悲しいくらい、可愛らしく飾り付けられた包装紙を、掌に載せて途方に暮れていたのが、つい60秒前のこと。そこへ男が通りかかり、ニヤニヤとからかったのが40秒前、女が反論しようとしたところ、未だに居残っていた友人が

「ん?ああセリゼあんた最近先輩と仲良いよね、いんじゃない?お似合いだし」

と言葉の手榴弾を投げつけたのが30秒前。

「はァ?」
「いやちょっ、違う、違うから」
「え、でもどっちもなんかモブっぽいじゃん(笑)」
「「…」」

以上、事の起こり解説終了。とある平凡な男と女は、このようにして廊下のはじっこで項垂れたのであった。
ちなみに同時に2人を落ち込ませた犯人はどっか行った。

「…ごめん、あたしの友達が…」
「…ホントだよ…最悪だなあの女…」
「…そこはフォローしてよ…期待してなかったけど…」

しょぼぼん、と分かりやすく落ち込む彼らの言葉に張りは無く、まがりなりにも思春期の青少年とは思えぬ生気の薄れっぷりである。少々、というよりかはだいぶ心の傷に抉りこんだ台詞を、真正面から受け取る羽目になった彼らの空気は重い。
ふう、少女は空気を吹き飛ばすには軽すぎる息をついた。クッキーを作っていたときは、それでも少しは楽しかった。それがどうしてこうなった。星型クッキーじゃもうどうにもならんわ、チョコチップが入ってるからなんだっていうのさ。落ち着かない気持ちを抱えていた2分前の自分に伝えたい。そんなんどうでもいいからさっさと食え。思うさま食え。そいつは悪魔だわたしの敵だ。

いっそヤケに走って食ってやれ、もう遅いけど。

ため息は空気を払拭するのには役立たなかったけれど、気分転換を助けるくらいには働いた。セリゼの手はピンクと藤色のリボンを解きにかかり、自分で結んだわりにはプレゼントを解くような楽しさを味わう助けになった。うん、なかなか良いかもしれない、ラッピングに凝るのも。
白いレースの包装紙に並んだクッキー、廊下に漂う甘いバターとチョコレートの香りがいっそう強くなった。

思うさまかみ砕いて味わってやる、決意新たに手にとったとき、ふと強い視線を感じて顔を上げる。

「いっこちょーだい」
「へ?」

許可を出す前にクッキーに伸び、そのまま口元へ運ぶ手をただ見守って、セリゼはぽかんと口を開けた。
なに、そんなキャラだっけ…と実際に言うことだけはなんとか我慢して(だって100倍になって仕返しされるのは分かり切っていた)ただただ驚きを体現するセリゼに、ジャックはクッキーを口に銜えながら不快の念を露わにした。

「え、食わすサービスとかそんなん無いけど」
「言ってないしして欲しいとか思ってないし!?」
「あそう?だらしなく口開けてるからはらぺこなんかと思って」

喜劇の様相を呈しつつある空気に飽いたのか、クッキー一枚と共にジャックはゆるゆると背を向けだ。

「んじゃ、ごちそーさまァ」

ええー。

最初の一度きり、ただの一度も嫌味や嫌がらせを吐き出すことなく去って行った男の背に、思いっきりセリゼは猜疑の視線をぶつけた。えええー。その背が振り返ることは無かったけれど、だからこそ、セリゼは思うのだ。もしかして、と。

もしかしてあいつ、甘いもの好きなの…

それは苦い毒ばかりを吐きだす男には随分と不似合いで、どこか滑稽で、ジャックの背が見えなくなるまでに笑いを堪えるのには随分と苦労を要した。もしかして甘い香りがしたからこっちに来たのか、とか、動物みたいな連想さえも浮かんでくる。やばいバカじゃないかあいつ。クッキーの匂いに誘われてきて勝手に傷ついてクッキー1枚で機嫌直して帰ってった。バカだ。
勝手な、けれどなぜだか納得のできる想像にひとり腹を抱え、セリゼはとうとうクッキーを食べるのを忘れたまま、1枚ぶんの隙間が空いた包みを持って自寮の塔へ歩みを進めた。

次会った時には飴とかで餌付けしてみようか、とか考えつつ。

(そして案外上手くいくかもしれないという、とても平凡なお話)

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