眩しいものを見る時人は目を細め顔を背ける。
彼は人間だったので、当然、そうした挙句に舌打ちした。
「死にゆくもの達はみな顔が優しくなる。そういうときに、私は、彼らはやはり神に看取られているのだ、と思うのです」
彼が仮宿としている教会の神父はいつか彼に向ってそう言った。おそらくは、それが彼の住居を提供する理由の一つなのだろう…とジャックは予想を立てている。彼は死にゆく人に敬意を払っていた。ならばジャックの瞳がいくら憎悪に濡れていようとも、彼には直接関わりのないことなのだろう。彼にとってジャックは既に、
「止めだ止め、道具の思想なんぞ知る必要がどこにある」
ジャックは魔力で作り上げた分体の口で吐き捨てた。綺麗なモノばかりを見つめて、苦労も呪詛も憎悪も知らぬ人間などは家畜でしかない。死を呪うのは人間様の特権だ。精々この世すべてに飼いならされた挙句、家畜でなかったことを死の間際に知るといい。
彼は強がりでなく本気で彼を見下した。そうとも、所詮神父は気取っていたところで神に焼き印をつけられた家畜そのものではないか。精々、寿命を延ばす作業を奉仕して、(その寿命を延ばされた可哀そうな患者が裏でどんなことをしているか知りもせずに!)不幸を撒くお手伝いをもしていただこうじゃないか。
「そう、家畜の思想なんざ俺には関係ない」
しかし彼の体は衰弱していたので、カーテンを閉じて日を避けることは難しい。
さもお優しい人間かのように、少女の姿をした化け物は心配した瞳でジャックを覗き込んだ。忌々しいことに、彼の作り上げた肉体は自由にならない本当の体のように体中で息をして、絶えない呪詛を吐きだすことができなかった。
ひんやりと土の奥から伝わる冷たさは彼の肉体を支えるのには余り向いていないようだった。「本体」と違って感覚が鈍った体であるはずなのに、底から震えが這い上がってくるような冷たさすら覚える。
朝露が未だ乾かぬ日陰に躊躇せず座り込んだ緑の化け物は、彼の抵抗を余所に強姦魔の如く魔力を操り彼の擬体の手助けをした。余計なことを、と、言ったのが伝わったかどうか。目撃者がいれば、肺の痛みに悶えることも出来ない。忌々しい彼の体は家畜に縋らねば保ち続けることさえ難しいのだと改めて教えられたかのようで、彼は口がきけたなら「なるほど、お優しい教師だ」と言ったことだろう。
「決着はまた今度」と一方的な取り付けを最後に立ち去った、緑の化け物を見送りもせず。彼は盛大に舌打ちした。
それが青々と茂る大樹から除く木漏れ日であっても、病人にとっては同じことだ。
「大丈夫ですか」
じわり、と体が再び熱く血潮を巡らせるのは神の御業。意識を「こちら」に引きもどしたジャックは、引き攣った笑みでその問いに答えた。ありがとう、あんたとあんたの主のお陰でまた死にぞこなった。神父は顔じゅうに走った皺をますます深くして、
「それは良かった」
と彼の幸せを祈った。
呼吸が落ち着いたのを見計らってジャックは、
「悪いが爺さん、カーテン閉めてくれない?眩しくて俺枯れちゃいそうなんだよね」
そのように神の家畜を誘導した。病人の願いと言うのは、大体にして聞き届けられやすいもの。彼が主治医と揶揄する神父も、医者の厳しさだけはどこかへ取りこぼしたように、大概、ジャックの請願には甘かった。
しかし、そのときの神父はまるで本当の医者のように、ジャックをたしなめてこう言った。
「君はもう少し太陽で体を温めた方がいいでしょう。枯れるなんてとんでもない、太陽から少しでも力を戴きましょう」
2人のジャックは同時に顔を歪めた。
日差し/木漏れ日から得た温かさは、否定し難く確かなことだったからだ。
彼は人間だったので、当然、そうした挙句に舌打ちした。
「死にゆくもの達はみな顔が優しくなる。そういうときに、私は、彼らはやはり神に看取られているのだ、と思うのです」
彼が仮宿としている教会の神父はいつか彼に向ってそう言った。おそらくは、それが彼の住居を提供する理由の一つなのだろう…とジャックは予想を立てている。彼は死にゆく人に敬意を払っていた。ならばジャックの瞳がいくら憎悪に濡れていようとも、彼には直接関わりのないことなのだろう。彼にとってジャックは既に、
「止めだ止め、道具の思想なんぞ知る必要がどこにある」
ジャックは魔力で作り上げた分体の口で吐き捨てた。綺麗なモノばかりを見つめて、苦労も呪詛も憎悪も知らぬ人間などは家畜でしかない。死を呪うのは人間様の特権だ。精々この世すべてに飼いならされた挙句、家畜でなかったことを死の間際に知るといい。
彼は強がりでなく本気で彼を見下した。そうとも、所詮神父は気取っていたところで神に焼き印をつけられた家畜そのものではないか。精々、寿命を延ばす作業を奉仕して、(その寿命を延ばされた可哀そうな患者が裏でどんなことをしているか知りもせずに!)不幸を撒くお手伝いをもしていただこうじゃないか。
「そう、家畜の思想なんざ俺には関係ない」
しかし彼の体は衰弱していたので、カーテンを閉じて日を避けることは難しい。
さもお優しい人間かのように、少女の姿をした化け物は心配した瞳でジャックを覗き込んだ。忌々しいことに、彼の作り上げた肉体は自由にならない本当の体のように体中で息をして、絶えない呪詛を吐きだすことができなかった。
ひんやりと土の奥から伝わる冷たさは彼の肉体を支えるのには余り向いていないようだった。「本体」と違って感覚が鈍った体であるはずなのに、底から震えが這い上がってくるような冷たさすら覚える。
朝露が未だ乾かぬ日陰に躊躇せず座り込んだ緑の化け物は、彼の抵抗を余所に強姦魔の如く魔力を操り彼の擬体の手助けをした。余計なことを、と、言ったのが伝わったかどうか。目撃者がいれば、肺の痛みに悶えることも出来ない。忌々しい彼の体は家畜に縋らねば保ち続けることさえ難しいのだと改めて教えられたかのようで、彼は口がきけたなら「なるほど、お優しい教師だ」と言ったことだろう。
「決着はまた今度」と一方的な取り付けを最後に立ち去った、緑の化け物を見送りもせず。彼は盛大に舌打ちした。
それが青々と茂る大樹から除く木漏れ日であっても、病人にとっては同じことだ。
「大丈夫ですか」
じわり、と体が再び熱く血潮を巡らせるのは神の御業。意識を「こちら」に引きもどしたジャックは、引き攣った笑みでその問いに答えた。ありがとう、あんたとあんたの主のお陰でまた死にぞこなった。神父は顔じゅうに走った皺をますます深くして、
「それは良かった」
と彼の幸せを祈った。
呼吸が落ち着いたのを見計らってジャックは、
「悪いが爺さん、カーテン閉めてくれない?眩しくて俺枯れちゃいそうなんだよね」
そのように神の家畜を誘導した。病人の願いと言うのは、大体にして聞き届けられやすいもの。彼が主治医と揶揄する神父も、医者の厳しさだけはどこかへ取りこぼしたように、大概、ジャックの請願には甘かった。
しかし、そのときの神父はまるで本当の医者のように、ジャックをたしなめてこう言った。
「君はもう少し太陽で体を温めた方がいいでしょう。枯れるなんてとんでもない、太陽から少しでも力を戴きましょう」
2人のジャックは同時に顔を歪めた。
日差し/木漏れ日から得た温かさは、否定し難く確かなことだったからだ。
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