花冠祭。この学院にいて、その冠を贈られる意味を知らぬものは無い。
何だかんだと色々あってなあなあで恋人同士っぽい間柄になった2人にとっての山場と成り得るそのイベント一月前になってさえ、その女は全力で空気も流れも読まず、こうのたまった。
「じゃあどっちが多く花冠貰えるか勝負する?」
「…は?」
それでいいのかノワ・デュランダル。仮にも恋人同士である2人の勝負としてはひどくムードもセンスもデリカシーもない。他人の気持ちを勝負ごとに扱うのはいかがなものか。もう少しロマンを持つべきじゃないか、いくらなんでも。というか男の身でありながら女の態度にデリカシーを問うときが訪れるなんて思っても見なかった。ノワの浮かべる明朗快活な笑顔に反して、頭痛を堪えるような表情になったギルフォード・ルドマンシェは、それなりに朴念仁っぷりをみせる男ではあったが、人並みの常識を持ち合わせていた。
というか、だな。
「あれは男が女に贈るものだ。始めから勝負にはならない」
「あ、それだいじょぶ。ギルくん男にも人気あるし、お願いすればきっと貰えるのよ」
「…えっ?」
知りたくなかった事実まで知らされて、流石のギルフォードも「今日はもう寝ようかな」と脳が現実からの逃避を企んでいることを否定することは出来なかった。意訳・まじでか夜道とか気をつけよう。正直人形の整備とかしていられる精神状況ではなかったが、学院きってのクールガイ・ギルフォードの面の皮はフルプレート並みに厚い。深く息をついて魔人形の内部構造を眺めれば、頭の奥まで澄み渡るようだ。落ち着いて歯車を数えるんだギルフォード。
恋人の動揺そっちのけで床にすわってもふもふとクッションにジャブを繰り出していたノワが、すっかり沈黙してしまったギルに首をかしげた。
「やなの?」
「久々にお前のバカさに痛感するくらいには、な」
「あれー?」
遭遇した喜びのあまりにか、作戦も無しに巨大サラマンダーに突撃していった背中を見送って以来の感覚だった、と後にギルフォードは語る。それほどの、なんつうか「あ、ダメだこいつアホだ」加減。今さらながらに、なんでこんな奴と付き合ったんだ、と後悔…はしていないが、過去の自分を諌めるくらいはしてもいい。
ギルフォードがそうして自分との対話を続けている間、ノワは暫く首を傾げたままだった。
そして次の瞬間、ギルフォードは自分が思い違いをしていたことを痛感する。ノワは只のバカではない。突撃していったと見せかけて、最も効率的な陣形を構築することができるくらいには頭が回る。ただ、戦闘が終わった後に、「上手くいってよかったのねー!」と何も考えてないことを露呈するほどには、しっかりバカを貫いている、バカだ。
「…むう。じぇらしーで止めるかと思ったけど、やっぱギルくんって手ごわいのね」
…バレなくて良かった。
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