・誰でもない子供と魔剣(アルダバラン)
・閃輝暗点(ネブラ)
・こーらる元キャラ文
・どろりっち(ネブラ)
-------------
・誰でもない子供と魔剣
手を引く子供の歩みが遅れつつあるのに、彼が気付かぬ筈はなく。
それが「優しさ」ではなく極限まで鍛えられた武器としての性質によるものだったにせよ、彼は気がついてしまったので。
子供が甘味屋のディスプレイに目を奪われていることも、当然、理解する羽目に陥った。
はぁ、と嘆息すれば、右手からは恐れたか驚いたか小さく震えが伝わった。
今さらだ。
子供が掴んでいる「手」は、千年も血を吸い続けた刃の写し身。知らぬまま頼る人の子の、滑稽なこと。
「食べきれるのか」
しかし。
問いの意図を悟り表情を一変させる現金さに慣れた、人の身勝手を憎悪した筈の魔剣と、どちらがより道化めいて見えるかなどは自明である。
ゆえに彼は、他の誰でもなく自分のために餡蜜を求め、甘味屋へ向かった。
子供が転ばない程度の歩調を保ちながら。
2011/09/09(金) 15:35
・閃輝暗点
黒板の字を読み進めようとする私の目を覆うように、瞳の奥の―――光の塊がその手指を伸ばし始めていた。
世界と共に眼球が回る。
襲い来る痛みの前触れに顔をしかめ、退出を示す手を挙げた。教導師が了解したかは把握できない。すでに視界の半分は白虹の煌めきに侵されていた。
朧気な輪郭を頼りに廊下へ向かい後ろ手に扉を閉めると、ふと脱力感が背骨から駆け上がった。私はそれに抗わず、静かな―――しかし僅かに教導師の声が響く冷たい廊下へ腰を下ろした。
頭の片隅で、取り繕う必要のない使い魔を呼びつけながら、脱力が締め付けとなり背から首へ、首から後頭部へ、這い上がるのを感じ続けていた。
痛みはまだ来ない。
それが何よりも今は耐えがたかった。
2011/09/18(日) 00:02
・コーラル元キャラ文再掲
その欲求を自覚してから、世界は私の敵となった。
本当はそれよりずっと前に私は世界と敵対していた。自覚したのは、そう、自分がそういう生き物だと思い知ってからだ。
私はこころというものに本当に縁がなかった。けれど他人を分析し、否定の目でみることだけには優れていた。
そして。理解が及ばないために分析出来ず、否定が出来ないほどに素晴らしい人間―――つまり人格者と呼ばれる、自らとは相反する人間に対して、私は激しく嫉妬した。
だから私は、私を恐れ関わろうとしなかった両親に、反感を持ったことはない。彼らは優れた教師であったが、親としてはあまり褒められたところがなかったから。そういったアンバランスな面をこそ、私は愛した。
一方。私を受け入れ、導き続けた兄は。
彼はずっと、私の敵だった。
許せなかった。家庭を崩壊させる私という存在を許容できる器が気に食わなかった。
あまつさえ、人形のようにうつろな目で座り込んだ私を更生しようという前向きさすら、彼は持ち合わせていた。
しかも、その上、恐れるべきことに、彼はとても優秀だった。
彼は私の内面を理解していた。その上で私を愛し、私に人間らしい情を植え付け、家族という概念を教え込んだ。
ああ。私はその点で彼を一生許すことはないだろう。
私は彼に破壊された。徹底的なまでに蹂躙し尽くされた。
わたしはそれまでの私を失い、嫉妬のみならず憎悪と悲哀を胸に抱くことになった。
そう。彼と過ごした私は彼を受け入れ、両親に愛を求め始めたのだ。
それを自覚したときの恐怖!
筆舌尽くしがたい、というのではまだ足りない。圧倒的な絶望がそこにあった。
なぜならば、私は私自身というものを深く理解していたからだ。
自分は人間には程遠い、化け物のような精神構造を持ち合わせているのだと。
私は愛されるということに程遠い人間なのだと。
怖かった。
愛したとて愛されかえすことのない世界に私は生き続けなければならない。
兄は本当に優秀な人間だった。
彼は罪を犯すことなく、平穏な家庭を壊された復讐を見事に成し遂げた。
私は喉の渇きを自覚しながら潤すことも出来ずに、砂漠を歩き続けなければならなくなったのだ。
だから、わたしは、彼を殺そうとした。
ただひたすらに彼が憎かった。平穏を奪った彼が。永遠を打ち壊した男が。
お前は大切な家族だ、大丈夫、いつか父さん達も分かってくれる。俺が付いてる。
喉が渇いた私は、兄の差し出した水が塩水であることを理解しながらも、それを飲まずにはいられない。
自衛行為だった。彼の手を振り払わなければ生きていけないと思った。
怖かった。何もかもが、変わっていく世界が、ドア向こうの団欒が、鋭い眼をした祖父が、心の支えだった全てが、自分に刃を向けているような気がした。否定のできるものは私の味方だったはずなのに、私は嫌われるほどにその対象を興味深く観察できていたはずなのに、人の心をもった化け物は、人を食べることが出来なくなった化け物は、生きる手段を失いつつあった。
だから殺した。
実際に殺せるかどうかはどうでもよかった。彼を完全に受け入れる前に、彼を害することができたのなら。
私は化け物に戻ることが出来る。
その信仰こそが私を「私」に保っていた。私は嘗て自己愛に取り憑かれた化け物であったと―――嘗ての自分という偶像に縋り続けた。けれど、兄を殺して戻ろうとすること自体が、既に私を失ったものの判断であった。本当の化け物ならば、本当に私以外を捨てようとするならば、殺す必要すらなかった。「私」には特別なものなどなかったのだから、彼一人を殺す必要などなかった。
だから罰が下された。
嘗ての私という神から。もはやお前は堕落したのだと、化け物になりたいのならばそうなるがいいと。
それは確かに裏切りだったのだ。飲んだ塩水を吐きだすことのできない私、いつまでも仄かな明かりを追う目が、私が人間のまま生きていることの何よりもの証拠だった。平凡な一戸建てから飛び出すようにして出てきた私が覚えたのは解放感ではなく、虚脱であったのだ。もう私を追うものがいない、という事実は逃げ続けていた私の足を止め、その場に縫い付けた。もはや進む理由はなく、しかし追われていなければ走ることさえ出来ないいびつな人間の私は、ただ、立ち尽くした。月に照らされた足元には自らのものとも思えない、醜く歪んだ毛皮が息づいていた。怖くて仕方なかった。何もかもが私の敵だと知った。私自身さえも。
それから。
それから私は、ゆっくりと歩き始めた。
その欲求に気がついてしまったのだ。再び私は追われていた。何処にも出口が見当たらない世界を、私は走り続けなければならないのだと知った。誰にも受け入れてもらえない世界を、逃げ道のない世界を、ただひたすらに逃げつづけなければならない。
私は愛されるような身ではないのに!こんな、身も心も歪な化け物となってしまったというのに!
追いかけてくるのは新たな欲求だった。あるいは、根源的な。
こんな、私にとって絶望しかない世界で。私の肉体は「生きたい」と叫んでいた。
2011/09/26(月) 11:58
・どろりっち
貴方は私たちの大切な子。何も変わらなくていいの、自分の好きにしたらいい。
子供は何も知らずにかけられた言葉をそのまま背負う。いつまでも気づかず取り込み糧にできればよい子になれる。対して私は。既に背負った荷を下ろすことを厭った。地に落ちた彼らの言葉は鎖となり、私の足へと巻きついた。彼らの言葉は枷だった。
私のなかに根付いた真実など昔からたった一つしかなくて、他のことなどまるで価値がないも同然だった。長く続く家、台無しにした二親、遠く囁かれる噂話。からかいにくる新興貴族の子供たち、見えない派閥の壁、親兄弟にも届かない声。周囲は私にとって価値のないものだらけだったけど、私も周囲にとっては価値のないものだった。
自分の好きにしたらいい。
(それは私たちになにも影響を及ぼさない)
ああ、それでも彼らは言う。大切な子供だと、私を大事にしていると。
ええ、ええ、父上母上兄さまたち、私は賢い末弟ゆえ、お望みの通りあなた方の想像を裏切らない程度の裏切りしか致しますまい。
2011/10/05(水) 02:29
・閃輝暗点(ネブラ)
・こーらる元キャラ文
・どろりっち(ネブラ)
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・誰でもない子供と魔剣
手を引く子供の歩みが遅れつつあるのに、彼が気付かぬ筈はなく。
それが「優しさ」ではなく極限まで鍛えられた武器としての性質によるものだったにせよ、彼は気がついてしまったので。
子供が甘味屋のディスプレイに目を奪われていることも、当然、理解する羽目に陥った。
はぁ、と嘆息すれば、右手からは恐れたか驚いたか小さく震えが伝わった。
今さらだ。
子供が掴んでいる「手」は、千年も血を吸い続けた刃の写し身。知らぬまま頼る人の子の、滑稽なこと。
「食べきれるのか」
しかし。
問いの意図を悟り表情を一変させる現金さに慣れた、人の身勝手を憎悪した筈の魔剣と、どちらがより道化めいて見えるかなどは自明である。
ゆえに彼は、他の誰でもなく自分のために餡蜜を求め、甘味屋へ向かった。
子供が転ばない程度の歩調を保ちながら。
2011/09/09(金) 15:35
・閃輝暗点
黒板の字を読み進めようとする私の目を覆うように、瞳の奥の―――光の塊がその手指を伸ばし始めていた。
世界と共に眼球が回る。
襲い来る痛みの前触れに顔をしかめ、退出を示す手を挙げた。教導師が了解したかは把握できない。すでに視界の半分は白虹の煌めきに侵されていた。
朧気な輪郭を頼りに廊下へ向かい後ろ手に扉を閉めると、ふと脱力感が背骨から駆け上がった。私はそれに抗わず、静かな―――しかし僅かに教導師の声が響く冷たい廊下へ腰を下ろした。
頭の片隅で、取り繕う必要のない使い魔を呼びつけながら、脱力が締め付けとなり背から首へ、首から後頭部へ、這い上がるのを感じ続けていた。
痛みはまだ来ない。
それが何よりも今は耐えがたかった。
2011/09/18(日) 00:02
・コーラル元キャラ文再掲
その欲求を自覚してから、世界は私の敵となった。
本当はそれよりずっと前に私は世界と敵対していた。自覚したのは、そう、自分がそういう生き物だと思い知ってからだ。
私はこころというものに本当に縁がなかった。けれど他人を分析し、否定の目でみることだけには優れていた。
そして。理解が及ばないために分析出来ず、否定が出来ないほどに素晴らしい人間―――つまり人格者と呼ばれる、自らとは相反する人間に対して、私は激しく嫉妬した。
だから私は、私を恐れ関わろうとしなかった両親に、反感を持ったことはない。彼らは優れた教師であったが、親としてはあまり褒められたところがなかったから。そういったアンバランスな面をこそ、私は愛した。
一方。私を受け入れ、導き続けた兄は。
彼はずっと、私の敵だった。
許せなかった。家庭を崩壊させる私という存在を許容できる器が気に食わなかった。
あまつさえ、人形のようにうつろな目で座り込んだ私を更生しようという前向きさすら、彼は持ち合わせていた。
しかも、その上、恐れるべきことに、彼はとても優秀だった。
彼は私の内面を理解していた。その上で私を愛し、私に人間らしい情を植え付け、家族という概念を教え込んだ。
ああ。私はその点で彼を一生許すことはないだろう。
私は彼に破壊された。徹底的なまでに蹂躙し尽くされた。
わたしはそれまでの私を失い、嫉妬のみならず憎悪と悲哀を胸に抱くことになった。
そう。彼と過ごした私は彼を受け入れ、両親に愛を求め始めたのだ。
それを自覚したときの恐怖!
筆舌尽くしがたい、というのではまだ足りない。圧倒的な絶望がそこにあった。
なぜならば、私は私自身というものを深く理解していたからだ。
自分は人間には程遠い、化け物のような精神構造を持ち合わせているのだと。
私は愛されるということに程遠い人間なのだと。
怖かった。
愛したとて愛されかえすことのない世界に私は生き続けなければならない。
兄は本当に優秀な人間だった。
彼は罪を犯すことなく、平穏な家庭を壊された復讐を見事に成し遂げた。
私は喉の渇きを自覚しながら潤すことも出来ずに、砂漠を歩き続けなければならなくなったのだ。
だから、わたしは、彼を殺そうとした。
ただひたすらに彼が憎かった。平穏を奪った彼が。永遠を打ち壊した男が。
お前は大切な家族だ、大丈夫、いつか父さん達も分かってくれる。俺が付いてる。
喉が渇いた私は、兄の差し出した水が塩水であることを理解しながらも、それを飲まずにはいられない。
自衛行為だった。彼の手を振り払わなければ生きていけないと思った。
怖かった。何もかもが、変わっていく世界が、ドア向こうの団欒が、鋭い眼をした祖父が、心の支えだった全てが、自分に刃を向けているような気がした。否定のできるものは私の味方だったはずなのに、私は嫌われるほどにその対象を興味深く観察できていたはずなのに、人の心をもった化け物は、人を食べることが出来なくなった化け物は、生きる手段を失いつつあった。
だから殺した。
実際に殺せるかどうかはどうでもよかった。彼を完全に受け入れる前に、彼を害することができたのなら。
私は化け物に戻ることが出来る。
その信仰こそが私を「私」に保っていた。私は嘗て自己愛に取り憑かれた化け物であったと―――嘗ての自分という偶像に縋り続けた。けれど、兄を殺して戻ろうとすること自体が、既に私を失ったものの判断であった。本当の化け物ならば、本当に私以外を捨てようとするならば、殺す必要すらなかった。「私」には特別なものなどなかったのだから、彼一人を殺す必要などなかった。
だから罰が下された。
嘗ての私という神から。もはやお前は堕落したのだと、化け物になりたいのならばそうなるがいいと。
それは確かに裏切りだったのだ。飲んだ塩水を吐きだすことのできない私、いつまでも仄かな明かりを追う目が、私が人間のまま生きていることの何よりもの証拠だった。平凡な一戸建てから飛び出すようにして出てきた私が覚えたのは解放感ではなく、虚脱であったのだ。もう私を追うものがいない、という事実は逃げ続けていた私の足を止め、その場に縫い付けた。もはや進む理由はなく、しかし追われていなければ走ることさえ出来ないいびつな人間の私は、ただ、立ち尽くした。月に照らされた足元には自らのものとも思えない、醜く歪んだ毛皮が息づいていた。怖くて仕方なかった。何もかもが私の敵だと知った。私自身さえも。
それから。
それから私は、ゆっくりと歩き始めた。
その欲求に気がついてしまったのだ。再び私は追われていた。何処にも出口が見当たらない世界を、私は走り続けなければならないのだと知った。誰にも受け入れてもらえない世界を、逃げ道のない世界を、ただひたすらに逃げつづけなければならない。
私は愛されるような身ではないのに!こんな、身も心も歪な化け物となってしまったというのに!
追いかけてくるのは新たな欲求だった。あるいは、根源的な。
こんな、私にとって絶望しかない世界で。私の肉体は「生きたい」と叫んでいた。
2011/09/26(月) 11:58
・どろりっち
貴方は私たちの大切な子。何も変わらなくていいの、自分の好きにしたらいい。
子供は何も知らずにかけられた言葉をそのまま背負う。いつまでも気づかず取り込み糧にできればよい子になれる。対して私は。既に背負った荷を下ろすことを厭った。地に落ちた彼らの言葉は鎖となり、私の足へと巻きついた。彼らの言葉は枷だった。
私のなかに根付いた真実など昔からたった一つしかなくて、他のことなどまるで価値がないも同然だった。長く続く家、台無しにした二親、遠く囁かれる噂話。からかいにくる新興貴族の子供たち、見えない派閥の壁、親兄弟にも届かない声。周囲は私にとって価値のないものだらけだったけど、私も周囲にとっては価値のないものだった。
自分の好きにしたらいい。
(それは私たちになにも影響を及ぼさない)
ああ、それでも彼らは言う。大切な子供だと、私を大事にしていると。
ええ、ええ、父上母上兄さまたち、私は賢い末弟ゆえ、お望みの通りあなた方の想像を裏切らない程度の裏切りしか致しますまい。
2011/10/05(水) 02:29
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