・不死人の午後(くくち)
・反射光が目に刺さる(ネブファウネブ)
・へどがでました(ジャック)
秋のご挨拶(ネブアルデ) :まとめきってないのでリンクつなげておきます

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・不死人の午後

人と魔の間に生まれた子は魔を狩るひととなる。
人の心をもち魔の力をもって人の仇敵たる闇を討つ。
ならば。
人も魔も凌ぐ深遠なる混沌を断つのは何物なるや?


かつて全ての魔を従えた王すら傅く、幼き陰の落とし子。小さな紅葉の手を木漏れ日に差し光の糸を弾くさまは人の子と毛ほども違わないようにも見え―――その実、人の子よりもなお脆弱な体をもて余している。
現世にはさぞ辟易しているかと思えば、未知を娯楽とする愚かさを棄てぬほどには聡い。

ウールヴ、狼と闇の子。

「少なくとも私を殺せるのには違いあるまいよ」

死した不死者はきょうきを孕む子を眺め、膝の上の笑顔を柔らかに慈しむ。
己を殺すのは、己よりも美しいものだと決めていた。

2012/01/17(火) 10:51

・反射光が目に刺さる

サディストか、マゾヒストかと問われれば、

「…あ」
「あー、わり」
「謝ってすむか馬鹿者。…襟を閉めたら怪しまれるな…全く」

たぶん己は前者だ、という自覚はあった。

背と胸、あるいは肩甲骨と胸骨を繋げるS字骨。肩を真っ直ぐ胸側にたどった鎖骨の脆弱部。
自分の肌の色のお陰でそうは目立たなくとも、それでも充分にと存在を主張する赤い痕。そのままにして襟口を開けておくのは、どうにもそら恐ろしいものがある。舌打ちまでとはいかずとも最大限に顔をしかめて不服を訴えれば、深刻さに欠ける顔が鏡に踊り出た。

「お前良く襟開けてるもんな…なんも考えて無かったわ」
「そうだろうよ」

己の顔をおさめるのには少し足りないくらいの手鏡には、情交の証とその導き手の顔が上半分。胸の上に乗り上げた頭部が呼吸の邪魔をする。覗き込む意味を敢えて問わないのは、この男の意味不明さにいちいちかかずらうようではいつまでたっても会話が成立しないのを知っているからだ。専門に関する知識とあらば理性の権化のように弁舌をふるうも、こと自らの心となれば直情的にすぎて理解を阻むのがこの男の在り様だ。

「愚かものめ」
「そこまで言うか…ぎゃっ」

あらゆる事象への腹いせに、いい加減持ち上げているのにも疲れた手を楽にし―――手鏡を覗いた男の顔に直撃させる。驚いた猫のような濁った悲鳴が耳に心地よい。

「不用意に近づくからだ」
「えー…鏡って危険物だったん…」

顔をさすりながらずるずると胸の上から絹地のシーツに移動する彼は、私ではなく手にした鏡をためすすがめつ恨みがましそうに見つめている。優しさなのか、あるいは度胸のなさなのか、はたまた真実私の言葉を信じたのか。私はふと、奇妙な符号に気がついて、彼が決して知りえない内心を言葉に織り交ぜようという気になった。

「知らなかったのか」

半身を起こし、サイドチェストに鏡を置く骨ばった背に怪談じみた声でかたる。

「油断すると噛み付かれるぞ」
「俺に?」
「…ある意味では。鏡の向こう自分に」

おれどうせならこっちがいいなあ、こちらを向いた男から降るキスを受け止めながら、それは私もそうだけれども、と胸中で返し。それでもこっそりと明日の欠席を企むのは、鏡向こうの自分の噛み痕がまだ残っているからだ。
治すように命じる(文字通り。頼むのではなく。)のは容易だ。だが、S字骨の湾曲した脆弱部はじくじくとした痛みを残し、存続を訴える。

…マゾヒストのつもりは、無いのだけれど。

「では、望み通り。鏡向こうのお前より先に噛みついてやるとしよう」

肉の薄い肩に思いきり爪を立てれば、やはりどこか鈍くくぐもった悲鳴が落ち。
私はようやく、鏡の自分に立てられた傷が癒えるのを知る。

2012/01/19(木) 18:46


・へどがでました

背骨をせり上がる痛みと吐き気。久しく本気を出さず仕舞いの口腔は、自らを摂食器官でなく排出器官だと思い違いをしているのかもしれない。
口の端からだらしなく引いた唾液の糸に丸い水滴が伝う。目の奥と喉が焼けるように熱いのに、痛みを追うように背にはぞっとするほどの冷たさが走った。

あァ、意味の無い音が吐瀉物の上に落ちる。

往生際の悪いポンコツめ。
悪態にさえキレのないジャック・グレイスはそのとき、正真正銘、何処にも価値の認められない本格志向のジャンクだった。

2012/02/02(木) 11:49

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