※エヴァ←9…?なんだこれ…?




 柔らかな声色で名前を呼ばれるたび、そうではない、と何かが叫ぶ。足元で騒いでいたそれが徐々に体を占拠していくたび、ふわふわとした、何一つこの世に定まったことなど無いような気になるのだ。
 喉の奥までせりあがってきたその叫びを、とうとう、ノヴェは声に出した。

 「エヴァンス。エヴァンス、そうではない。わたしが望んでいるのは、そんなことではないのです」
「ええと。済まない、ノヴェ。君が何を言いたいのか、」
「『わたし』の名は、アルノシトではなく、またノヴェでもない。あなたと話しているのはわたしだ。あなたに服を贈ってもらったのも、共に図書室で知識を分け合ったのも、わたし1人だ。わたしたちではない。エヴァンス、わたしは『わたし』が欲しい」

 酷く論理的ではない言葉だった。
 おまけに、偽りさえあった。ノヴェの経験は全て情報として集積されており、何れはノヴェの経験を全てのアルノシトが身につけることになるだろう。それは、エヴァンスと共に過ごしたアルノシトがノヴェだけでないことを意味していた。
 ノヴェだけではない。
 エヴァンスの服の端を掴むと、コロンの良い香りがするということ、狼狽を隠さずにいると、落ち着かせるように髪を梳いてくれるということ、困ったように微笑むその顔も、全て、ノヴェだけのものではない。

 「わたしは、私が欲しいのです、エヴァンス」

 できるなら、あなたが欲しい。
 言いたかったのに、それだけが喉の奥に残った。
 彼のデータを集積し続けているノヴェには、彼が人形を嫌っていることはずっと前から分かりきっていた事実だった。
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