私には多くの友人がいる。ティータイムは騒がしく、まるで静寂を楽しむということをしない者たちばかりだが、しかし不思議と不快には感じない。他のどの作業が上手くいかずとも、紅茶を淹れることだけは上達したのも、おそらくはその時間が私にとって貴重なものだったからだろう。

 だからずっとそれでいいとすら思っていた。

 「お前が欲しい」

 と、聞き覚えのある声で呼びとめられるまでは。


 低く、しかし良く透る男の声。冷静を信条とする私とて流石に動揺させられた。ネブラ・トリア・プラトゥムは男子生徒だ。内情はどうあれ。故にその言葉はどんな意味合いをもってしても、とりあえず状況読んでないとしか思えない公開変態宣言に他ならなかった。個人の性癖は自由だが、巻き込まないで欲しい、と眉を寄せて切実に祈る。
 祈りは神に届かず、振りかえった先には私を見下ろす巨躯の男。特徴的な入墨は厳めしい顔を更に迫力あるものに装飾し、端的に言えば、私は全力でびびった。これから暗闇とか気をつけよう、と。

 「聞こえなかったか。お前が、」
 「私はそういう趣味じゃない」

 切り捨てた意図が伝わらなかった訳ではないだろうに、巨躯の男は訝しげに首を傾げる。
 私はその隙に、早足でその場を去ることにした――――廊下中の視線が、刺さるように私の背を追ったのが感じられた。深刻に死にたくなる。
 男は追ってこなかった。噂が広まれば、きっと今日明日のティータイムは、地獄となるのだろう、という予感を抱きながらも、私は胸を撫で下ろした。


 それで全部が済んだことになるはずだった。


 「おや、懐かしいお方にお逢いしたのですね」

 自室に帰ると、開口一番、不肖の使い魔が主を迎える言葉すらなくそう言ってのけて、そこで初めて私は、あの声に懐かしさを覚えていた自分に気付いたのだ。

 「ジークフリード様はお元気でいらっしゃいましたか。今度は私も御挨拶に参りましょう」




 心臓が止まったような気さえした。
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