鼠、羽虫、湿った石を叩く音。

アアア、声に為らぬ叫びが苦痛を訴え力を喚んだ。静寂を聴いた耳が幻の音を聴くのとよく似た声が、石室の壁を震わせる。

彼の声は音にならない。

ひとの出来損ないは何にも属さず、故に言葉を必要としなかった。そもそも、それを造る器官すら、それには与えられなかったのだから。彼が聴く音もまた常人のそれとは違う。彼にはただ意志があった。

充足を求めれば肉が在った。
渇きを叫べば甘露が在った。

彼に意志すらなく生のみがあるのなら、彼はそこで潰える幸せを知っただろう。
しかし、彼には意志があった。だからそうはならなかった。

鼠、羽虫、湿った石を叩く音。

彼はそれに飽いた。



石室の中の彼は王だった。
彼の望むままにあらゆる生命は動いた。
飽いた彼が僅かに驚いたのは、彼に支配されているのは小さき生き物だけではなく、彼は彼自身の王であったということだ。
智を求めはじめた彼の体は、彼の思うように動いた。
鼠のように背を低くして這うのではなく、羽虫のように慌ただしく羽ばたくのではなく、そこに在るべきと定めたところに、彼は居ることができた。

アアア、と、声に為らぬ声が石室の壁を叩き、それを貫いた。
燐光が差す。


死の王の産声であった。
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