・過激派、白銀オズ
・ツツ小夜
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・過激派、白銀オズ
愚かな子供だった。
愚かな子供であることを満喫できず、頭を巡らしては「理想に足りない」と膝を抱えるような、そういう子供だった。
白銀小鶴にとって家族とは「家族」という一塊の存在で、己とそれぞれがどのような関係であるのかを判断するには至らない繋がりであった。それぞれに欲する関係を、彼らは決して返そうとしなかった。オズの欲求を理解していてなお返さないと判断したのか、欲求を感じ取ることすらしなかったのか、それは長じてからもオズには分からないことだが(最も可能性が高いのは、彼らはみなオズに似ているのだ、ある一点において)、幼少のオズが常に何かに飢えていて、それが与えられなかったのは確かなことだ。
馬車馬のように働く男と、戯れに属した反社会的組織の一員はオズをしてそう称する。オズは学生であり、外見を切り売りする社会人であり、そしてその社会を瓦解させようとしているテロリストでもあった。
元気だな、とあきれたように彼らは言う。
けれどもそれは間違っていて、オズは活力に充ちているから動くのではなく、充たされるために動こうと努力しているのである。
「俺は美しい」
オズは硝子窓に差す影に向かって呟く。異性のみならず同性の目をひく(それは決して性的な意味ではなく商業的なものであると思うけれども)うつくしさ、というのは、その絶え間なき飢えと捕食からなる「けもの」のものだ、と彼は考えている。ひとのあるべき姿が己であると。少なくとも白銀小鶴の完成系はそのようにして近づくものだった。
「あなたたちにも判れば良いのに」
朧月、夜風に吹かれた銀糸は白銀の家系の名に恥じぬ煌めきを帯びて、オズの憂いを彩った。情緒のかたちは長じてもなお変わらない、理解を得られないのは寂しいことだ。
お前は元気だな、と仲間の一人が呆れたように息をついた。
駄々を捏ねる子供はみんな元気に見えるものさ、とオズは完璧な笑みを浮かべる。
夜露に濡れた石畳のように、木目調のフロアタイルは深夜の恐慌の残滓をぽつぽつと赤く光らせていた。
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・ツツ小夜
▽ツツ小夜
「ツツジさん」
「はィ」
珍しく、本当に珍しく、敬語めいて、神妙に、(さほど低くもないのに無理やり)地を這う声色に向きなおるツツジには、白銀小夜の不機嫌の理由について心当りがありまくりであった。
ありまくり、といっても数の話ではない。
量の話だ。
つまりとんでもなく大きな「不機嫌の理由」を、ツツジは抱いている。それも珍しく、彼が大人しくなるような理由で。
「いつこれが周知されるようになったか、詳しいことが聞きたいんですが」
「俺がやった訳じゃねェんだけど…」
「黙れ」
「はァい…」
黒い手袋に握り潰されている哀れな葉書に、助命嘆願するものはここにない。だからそれに何が記されていたのかを知るのはたった3人である。
ツツジと、小夜と、差出人。
しかし前者二人がこのまま黙殺しようと、最後の一人は口が軽く葉書の内容を良いことと信じたままなので、葉書の内容に似た「事実」を嬉々として語り広げることだろう。
息子にできた、綺麗な銀髪の恋人についての興味と関心と歓迎の気持ちを、それはもう楽しそうに。
「相方つっただけなんですけどォ、なんか若者言葉と思ったらしくてェ…」
「訂正はしたんですか」
「したけど全然聞きやしねェ」
「最悪だ…」
だが、二人がどれだけ深刻な顔になろうと、正座している足が痺れすら忘れる時間が立とうと。
二人がツツジの私室で一夜を過ごした後に為されるのがこの様子とあっては、どんな振る舞いも喜劇以外には為り得ない―――彼らが他人から見て恋人以外のなにものでもないように。
・ツツ小夜
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・過激派、白銀オズ
愚かな子供だった。
愚かな子供であることを満喫できず、頭を巡らしては「理想に足りない」と膝を抱えるような、そういう子供だった。
白銀小鶴にとって家族とは「家族」という一塊の存在で、己とそれぞれがどのような関係であるのかを判断するには至らない繋がりであった。それぞれに欲する関係を、彼らは決して返そうとしなかった。オズの欲求を理解していてなお返さないと判断したのか、欲求を感じ取ることすらしなかったのか、それは長じてからもオズには分からないことだが(最も可能性が高いのは、彼らはみなオズに似ているのだ、ある一点において)、幼少のオズが常に何かに飢えていて、それが与えられなかったのは確かなことだ。
馬車馬のように働く男と、戯れに属した反社会的組織の一員はオズをしてそう称する。オズは学生であり、外見を切り売りする社会人であり、そしてその社会を瓦解させようとしているテロリストでもあった。
元気だな、とあきれたように彼らは言う。
けれどもそれは間違っていて、オズは活力に充ちているから動くのではなく、充たされるために動こうと努力しているのである。
「俺は美しい」
オズは硝子窓に差す影に向かって呟く。異性のみならず同性の目をひく(それは決して性的な意味ではなく商業的なものであると思うけれども)うつくしさ、というのは、その絶え間なき飢えと捕食からなる「けもの」のものだ、と彼は考えている。ひとのあるべき姿が己であると。少なくとも白銀小鶴の完成系はそのようにして近づくものだった。
「あなたたちにも判れば良いのに」
朧月、夜風に吹かれた銀糸は白銀の家系の名に恥じぬ煌めきを帯びて、オズの憂いを彩った。情緒のかたちは長じてもなお変わらない、理解を得られないのは寂しいことだ。
お前は元気だな、と仲間の一人が呆れたように息をついた。
駄々を捏ねる子供はみんな元気に見えるものさ、とオズは完璧な笑みを浮かべる。
夜露に濡れた石畳のように、木目調のフロアタイルは深夜の恐慌の残滓をぽつぽつと赤く光らせていた。
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・ツツ小夜
▽ツツ小夜
「ツツジさん」
「はィ」
珍しく、本当に珍しく、敬語めいて、神妙に、(さほど低くもないのに無理やり)地を這う声色に向きなおるツツジには、白銀小夜の不機嫌の理由について心当りがありまくりであった。
ありまくり、といっても数の話ではない。
量の話だ。
つまりとんでもなく大きな「不機嫌の理由」を、ツツジは抱いている。それも珍しく、彼が大人しくなるような理由で。
「いつこれが周知されるようになったか、詳しいことが聞きたいんですが」
「俺がやった訳じゃねェんだけど…」
「黙れ」
「はァい…」
黒い手袋に握り潰されている哀れな葉書に、助命嘆願するものはここにない。だからそれに何が記されていたのかを知るのはたった3人である。
ツツジと、小夜と、差出人。
しかし前者二人がこのまま黙殺しようと、最後の一人は口が軽く葉書の内容を良いことと信じたままなので、葉書の内容に似た「事実」を嬉々として語り広げることだろう。
息子にできた、綺麗な銀髪の恋人についての興味と関心と歓迎の気持ちを、それはもう楽しそうに。
「相方つっただけなんですけどォ、なんか若者言葉と思ったらしくてェ…」
「訂正はしたんですか」
「したけど全然聞きやしねェ」
「最悪だ…」
だが、二人がどれだけ深刻な顔になろうと、正座している足が痺れすら忘れる時間が立とうと。
二人がツツジの私室で一夜を過ごした後に為されるのがこの様子とあっては、どんな振る舞いも喜劇以外には為り得ない―――彼らが他人から見て恋人以外のなにものでもないように。
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