「価値ある地位に価値あるものを配置する」。政治に対してそういったことを望む民は数知れず、そして私の血族は、その点から云えば、まつりごとを誠実に実行するよき機関であったのだろう。―――だが、正答に至る解法が一つではないように、誠実なまつりごとが誠実な行いに依って作り上げられるとは限らない。

 およそ人口の一割が王族である、という国はわが国をおいて他には無いだろう。…もっとも、そのうちのさらに九割九分は、五つにも満たない子供。彼らは長じるまでには王族の権利を行使することは許されない。王族の子を孕んだ親は、助成金が与えられると聞くけれど…それも五つになるまでだ。
 一割が王族であるにも関わらず政治が崩壊しないのは、その多くが儀式によって失われることが決まっているからだ。貪られるさだめの生き物の卵が多いように、この国では王族がもっとも「死にやすい」。故に我が祖国の王族は、増えることを限定されることはないのである。

 私が思い出せるのは、一面の青だ。
 青と認識できるからにはそのどこかに光源があったのだろうけれども、今となっては記憶も朧なものである。次に感じたのは針を刺すような痛み。体温で溶けた氷がその端から凍りつき、皮膚に癒着する痛みだ。『冷気』の物量に小さな体の熱は押し流され、体が熱を覚えていられるのもそう長い間ではない。
 体中が、奪われ、失われる感覚に悲鳴をあげて、そうして、―――自分にしがみ付く子供だけが王族になる。

 「冬」を統治する力を得るのだ。

 そうなった「真の王族」は、「偽り」の親の元を離れ、以降生涯を王族として過ごす。親に向ける情などは、皆氷室に捨てていくのだ。…良くできたもので、五つになるときに子供を『差し出した』親にはやはり助成金が与えられ、そうならなかった子供は王族の名前を失うのだ。氷室に入った子供はみな、自分は捨てられたのだと理解していた。
 生命と情とを奪われるようにして、代わりに統治の力を得た子供は、それから王族としてのふるまいを身に着けるようになる。自分が頼れるのは最早、冬の血族だけであることを知って。
 そうして彼らは、凝り固まった「白い国の王族」としての誇りのみを胸に、生きる。
 人らしい情を捨てて。人らしい命を捨てて。

 …他人事のようだと。
 君はそういうだろう。わたしが五つに満たないようには見えないのだから、同じ試練を越えただろうと。
 そうして冬を統治してゆくはずだろうと、君は不思議に思うだろう。

 あの国の王族は皆、冬に親しくなるか、あるいはそれに対抗した力を持つものばかりが生き残るように出来ている。だから、「それ以外の解法」を選んだ私を扱い兼ねているんだ。
 私は氷室で、君たちに頼る術を編んだ。
 私は、血族以外に頼るものを知ってしまったが故に、彼らのような王族には為れない。
 自分に残された僅かな力を頼るのではなく、柔らかな羽毛と暖かな毛皮に包まれることを知った。私に誇りは生まれないだろうし、私ではかれらの政治を揺らがせるばかりだろう。
 だが、『越えて』しまった私を、現行法ではどうすることもできない。古くから決まっていたことだ。儀式を越えた子供は、認められるものなのだと。

…そういうわけで、私も、国も、困っている。
困り果てて。
とりあえず、建前を作ることにした。

「春」を知るものということにして。
南の国へ学びに行くことにした。

理解したか、私が君を呼んだ理由が。
そう、君は戦のためでも騎乗のためでも威光のためでもなく、召喚術のテストのために呼ばれたのだ。
一刻ほどお付き合い願おう。その後は、君が好むという果実を贈るから。


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ノーマン。
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