オレの「幼馴染」は、タフで、クールで、まじめで、化け物じみた頭脳の持ち主で、オマケに街を歩くとちょっと目を引くレベルで顏がイイ。
そんな奴がそばに居れば、大抵の人間は惚れるか嫉妬するかのどちらかだと思う、が、オレと妹の場合は、少し普通とは事情が違っていた。
あいつとオレたちが初めて会ったのは、チョロネコを奪われて少しした、近所に知らない女の人が引っ越してすぐの頃だ。なんだかすごく偉い博士と知り合いだという話を、父さんたちが少し興奮したようにしゃべっていたのを覚えている。
仕事で忙しい大人のかわりに、俺たちがヒオウギシティを案内したとき、その人は高い展望台から眩しそうに景色を眺めて「良い街ね」と静かに言った。生まれたころから住んでいる街を褒められて、オレと妹はそのとき久々に楽しい気持ちになって、顔を見あわせてくすくすと笑ったのだ。
そんな風な出会いだったから、きっと「彼女」もオレたちに秘密を教えてくれる気になったのかもしれない。
それから暫く、一週間くらいだったかもしれない。オレと妹は父さんたちに呼ばれて「大事な話」というのを聞いた。引っ越してきた女の人には、秘密にしている子供がいるんだという話だ。
「お前たちにはその子の友達になってほしいんだよ」
父さんは、人を紹介するにはちょっとどうかと思うほど、ずいぶんと慎重な態度で切り出した。
「けれど、面白半分にいろんな噂を流したり、意地悪するのは駄目だぞ」
「しねーよ、そんなガキみたいなこと」
その時は今よりずっとガキだったけど、一人前のような顔をして答えた。
「わたしも、しないよ」
妹が何を考えていたのかは知らないけど、父さんと指切りまでした約束は、オレも妹も未だに破ったことはない。オレは妹のマジメな横顔を見て、「チョロネコのことで傷ついていたのが、少しでも楽になるといいな」なんてのんきなことを思っていた。
オレと妹の口が開いたまま塞がらなくなったのは、その日のうち、すぐだった。
ああ、ここまで聞くと、多くの人は「ポケモンだったのかな?」なんて思うかもしれないな。
でも違うんだ。
ある意味ポケモンよりよっぽどすごいヤツが、「彼女」の家にいた。
「ごめんなさいね、今、この子の体はまだできていないのよ」
「彼女」―――つまり、オレの幼馴染のお母さんは、パソコンの画面をオレたちに向けた後、ウインクしながらそう言った。この子の体。できていない。わけわかんねえ、と、口に出さなかったのは褒めて欲しい。
画面の中で(必要もないだろうに!)ぱちりと瞬きをする女の子の映像。
それが一番初めに出会った「オレたちの幼馴染」だった。
「少し休めば」
妙に抑揚の無いしゃべり方と滑らかな声で提案された言葉に、オレは首を振った。
「プラズマ団を探さなきゃならねえ、少しでも急ぎたい」
「でも、20分前と比べて移動速度が分速83mから64mに落ちている、疲れている証拠だと思う」
「…正確なデータいらねえからな、それ」
ここの回りくどい言い方はずいぶん砕けたように思ったけど、たまにこうして素が出る(とでも言うのか?)とつくづく人間離れしたやつだな、といっそ感心する。いや、そもそも人間じゃないから当然なんだけど。
自分に不備はない、とでも言いたいのか、ゆっくりと首を傾げてじっとこちらを眺めている―――薄暗い場所だからか、その眼に妙な迫力が感じられて、俺は根負け(ってのもおかしい気がする…)して冷たい床に座り込んだ。
「ほら、これでいいだろ。少しだぞ、少し」
「5分経ったら教える」
「おう、頼む」
妹が見れば「女の子を立たせて自分だけ座るだなんて、デリカシーなさすぎ」と眉を吊り上げるだろうが、これは不可抗力だ。指摘されて気づいたが、オレはこいつの言うとおり、薄暗い下水道をうろつくのに疲れていた。「座る必要性」を説得するだけのエネルギーなんか、残っちゃいなかったのだ。
オレは壁に背を預けて、少しだけ目を瞑った。湿って淀んだ空気に満ちた場所なのに、随分と目が乾いていたな、と気づく。
うっすらと眠気が近づいているのが分かったけれど、オレは敢えてそれに耐えることはしなかった。
「あいつ」は必ず、5分きっかりに起こしてくることが分かっていたからだ。あいつはそういう奴だ。
―――オレたちの幼馴染、ポケモンを集めて旅をするように「命じられた」こいつは、人工知能を搭載した、アンドロイドだ。
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からの5分どころか20分くらい放置しているメイと、起きてから怒っていいのか柔軟性を褒めてやればいいのか悩むヒュウ。山場を書かないとかお前どういうことだよ(一般名で表記してみたけどなんか違和感あるな…)
妙に回りくどい表現を使ったのはヒュウの性格を加味した判断だったりする。
しれっと嘘ついたりする系アンドロイド。
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