あひるさんオリジナル世界に捏造の街
@blueblue_b
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バルネシアの死の街について。
元々、バルネシアに定住している一族と毛皮の交易をするために大陸と往復していた海遊商団が由来。
「不毛の地を植物が覆う、そんな景色を見てみたいのだ」彼らに詰め寄った一人の学者があった。
商団ははじめ、面倒なものを抱えるのに難色を示した。しかし、死んでも構わないとまでの覚悟にとうとう折れて、彼らは取引のために停留するバルネシアの「仮宿」を彼に託した。
数年後、バルネシアに停泊した海遊商団を迎えたのは、想像していた通りの凍った学者の死体であった。
傍らには狂気すら感じられる細かな手記と、見たこともない美しい石が落ちていた。
『私はあらゆる植物を育ててみようと決意した―――』
手記に綴られていたのは彼の途方もない苦労と、信念に対する無慈悲な環境の裏切り。
そうして項が残りわずかとなってようやく訪れた奇跡は、やはり彼を裏切った―――かに見えた。
『息が苦しい。ああ。やはり呪いの土地に抗うのは無謀だった。私はやがて死ぬだろう。しかし』
『それにしてもこの実は美味い。あと一房、持ってこなかったことが悔やまれる。これを読んだ恩人たちよ、どうか、私の墓にはこの悪魔の実を山と積んでくれ』
「これ食い物なんだ…」
「美味いんだ…」
「へえ…」
商団のうちの一人が言った。
「なあ、俺はこいつでいいぺてんを考えたぜ」
「だが、これは毒だというだろう。売り物にはなりゃしないよ」
「まあ待ちな、売るのはこの実じゃない。…みてみなよ、学者さんの死に顏を。まるでたった一人で死んだとは思えない、いいツラをしているじゃないか」
それから、商団は世界に「ぺてん」を仕掛けることにした。
奇跡の実。それは、やさしい死を齎す奇跡の実だ。
呪いの土地ではなく、死への道行きなのだと語る「祭祀」は、商団でいちばん口の上手い男が選ばれた。
商団は大陸でひそひそと騒ぎ立てる。あの土地には恐ろしくない死があるようだ。
今までの取引相手は初め渋い顔を見せたけれど、「植物学者はこの地に緑を齎したがっていた」と本当のところをこっそり漏らせば、利益も感情も是として頷いた。
彼らは奇跡の実を詰む神子となった。
そうしてバルネシアに、死を祀る街が生まれた。
成り立ちはどうあれ、彼らは商売には真摯であった。だから死の街は敬虔な信徒で秩序が保たれているようなかんじだし、まあ大まかにいえば実情からは外れてもいないのである。
ぺてんの極意は真実に嘘をひと匙だけ入れることだ。
けれどひと匙の嘘は随分と真実のあいだに薄まってしまったので、今やどれが嘘だったのか、商団あらため祭祀たちにはとんと思い出せぬありさまなのだった。
@blueblue_b
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バルネシアの死の街について。
元々、バルネシアに定住している一族と毛皮の交易をするために大陸と往復していた海遊商団が由来。
「不毛の地を植物が覆う、そんな景色を見てみたいのだ」彼らに詰め寄った一人の学者があった。
商団ははじめ、面倒なものを抱えるのに難色を示した。しかし、死んでも構わないとまでの覚悟にとうとう折れて、彼らは取引のために停留するバルネシアの「仮宿」を彼に託した。
数年後、バルネシアに停泊した海遊商団を迎えたのは、想像していた通りの凍った学者の死体であった。
傍らには狂気すら感じられる細かな手記と、見たこともない美しい石が落ちていた。
『私はあらゆる植物を育ててみようと決意した―――』
手記に綴られていたのは彼の途方もない苦労と、信念に対する無慈悲な環境の裏切り。
そうして項が残りわずかとなってようやく訪れた奇跡は、やはり彼を裏切った―――かに見えた。
『息が苦しい。ああ。やはり呪いの土地に抗うのは無謀だった。私はやがて死ぬだろう。しかし』
『それにしてもこの実は美味い。あと一房、持ってこなかったことが悔やまれる。これを読んだ恩人たちよ、どうか、私の墓にはこの悪魔の実を山と積んでくれ』
「これ食い物なんだ…」
「美味いんだ…」
「へえ…」
商団のうちの一人が言った。
「なあ、俺はこいつでいいぺてんを考えたぜ」
「だが、これは毒だというだろう。売り物にはなりゃしないよ」
「まあ待ちな、売るのはこの実じゃない。…みてみなよ、学者さんの死に顏を。まるでたった一人で死んだとは思えない、いいツラをしているじゃないか」
それから、商団は世界に「ぺてん」を仕掛けることにした。
奇跡の実。それは、やさしい死を齎す奇跡の実だ。
呪いの土地ではなく、死への道行きなのだと語る「祭祀」は、商団でいちばん口の上手い男が選ばれた。
商団は大陸でひそひそと騒ぎ立てる。あの土地には恐ろしくない死があるようだ。
今までの取引相手は初め渋い顔を見せたけれど、「植物学者はこの地に緑を齎したがっていた」と本当のところをこっそり漏らせば、利益も感情も是として頷いた。
彼らは奇跡の実を詰む神子となった。
そうしてバルネシアに、死を祀る街が生まれた。
成り立ちはどうあれ、彼らは商売には真摯であった。だから死の街は敬虔な信徒で秩序が保たれているようなかんじだし、まあ大まかにいえば実情からは外れてもいないのである。
ぺてんの極意は真実に嘘をひと匙だけ入れることだ。
けれどひと匙の嘘は随分と真実のあいだに薄まってしまったので、今やどれが嘘だったのか、商団あらため祭祀たちにはとんと思い出せぬありさまなのだった。
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