つかささんオリジナル世界のPC
リヒタルフ・シュティルフリート・ガルデンツァウバー
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彼は昔、彼であって、そののち彼らとなり、再び彼となった。
彼らは初め互いを己と認識していた。
違いが生まれたのは父の前で膝をついたときだった。
王子と呼ばれるのが何故か己だけである理由を、説明されるまでもなく彼は悟った。それは身を引き裂かれる悲しみであった。
支え合おうと思っていたはずだった。話に聞くような、血を分けた身の争いなどは起こすまいと誓っていたはずだ。
取り合っていた手を振り払ったのは、白衣を着る少し前だ。
悟った役割の他に見せつけられた役割をもって、彼は己と世界の関わりに答えを出さねばならなくなった。片割れの温もり無しに。
なぜなら白雪姫はどこにもいない。
彼は幾度も世に問いかけた。
なぜ?なぜ白雪姫は消えた?なぜ姫を救い上げる王子がこの惨状を作りだす必要がある?なぜ己はこうして己であることを苦しまなければならない?
王子であるのに!終幕を務める王子であるのにもかかわらず!
それは彼にとって解法のない問いであった。解法の無い問いとはすなわち、誤植に過ぎぬ問いだ。なぜ白雪姫は消えたのか?彼は結論づけた。世界が完璧ではなかったからだ。世界の誤植の隙間に彼女の存在は隠された。故に彼が王子であることも苦痛を伴う試練となったのだろう。
王子はその明朗さでもって終幕を告げねばならない。これより先は幸福のみが広がるのだという象徴として君臨せねばならない。だが己はどうだ?身のうちを喰い荒らすような苦しみにのたうち回り、王子という外殻に歪められた臓腑は彼自身を苛み続ける枷である。
世界は十全ではない。
だから彼は、彼の扱う被検体は苦しみ、童話たる世界に争いごとが絶えず、白雪姫は消えた。
十全でさえあれば、あるいはそれらの苦痛は取り払われるのではないか?
全ての罪を女王が引き受け、全ての終わりを王子が引き受ける世界になり得るはずだったのではないか?
世界を十全にせねばならない。
苦痛なき幕引きのために。なれば彼は十全な王子でなければならないし、苦しみも悲しみも怒りも、そして片割れを頼り憎む想いも滅ぼさねばならない。
―――だいたいそんな感じで生きてみたはいいが、弟がナチュラル王子なので正直譲りたい。
「兄上!」
涼やかな声が回廊に響く。なんでこいつ王子機関のこと知ってるのにくっそ明るいねん、キチガイか、と彼は思った。たぶん、その表現でだいたい合っている。しかも天然の方だった。
最近彼はこうも思う。物語の人物はそれをそうとして認識し得るものなのか?
それは彼が「王子」であることと矛盾しない。弟もやはり王子であるからだ。彼が教え諭す役割であるとすれば、彼が十全に王子を務めあげることは不可能ではない―――彼自身がそうであるよりもずっと、「完成度」の高い王子に。なにせ彼の片割れは、世界の問いを未だ知らない。
しかし、
「どうした。何かあったのか?」
最早意識するまでもなく浮かぶ完璧な笑みを浮かべ片割れを振り向くと、
「いいえ、兄上を見かけたものですから、つい」
唯一の問題点を全力で前面に押し出してくるので、彼は王子を務め続ける他ないのだ。
「あ、ああ…そう…」
「はい!」
(こいつ恋とかできるのかな)
浮かぶ疑問は物語構造においてあまりに致命的で、故に彼は、十全な王子を務め続ける他の選択肢を未だ持たない。悲しいことに。
リヒタルフ・シュティルフリート・ガルデンツァウバー
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彼は昔、彼であって、そののち彼らとなり、再び彼となった。
彼らは初め互いを己と認識していた。
違いが生まれたのは父の前で膝をついたときだった。
王子と呼ばれるのが何故か己だけである理由を、説明されるまでもなく彼は悟った。それは身を引き裂かれる悲しみであった。
支え合おうと思っていたはずだった。話に聞くような、血を分けた身の争いなどは起こすまいと誓っていたはずだ。
取り合っていた手を振り払ったのは、白衣を着る少し前だ。
悟った役割の他に見せつけられた役割をもって、彼は己と世界の関わりに答えを出さねばならなくなった。片割れの温もり無しに。
なぜなら白雪姫はどこにもいない。
彼は幾度も世に問いかけた。
なぜ?なぜ白雪姫は消えた?なぜ姫を救い上げる王子がこの惨状を作りだす必要がある?なぜ己はこうして己であることを苦しまなければならない?
王子であるのに!終幕を務める王子であるのにもかかわらず!
それは彼にとって解法のない問いであった。解法の無い問いとはすなわち、誤植に過ぎぬ問いだ。なぜ白雪姫は消えたのか?彼は結論づけた。世界が完璧ではなかったからだ。世界の誤植の隙間に彼女の存在は隠された。故に彼が王子であることも苦痛を伴う試練となったのだろう。
王子はその明朗さでもって終幕を告げねばならない。これより先は幸福のみが広がるのだという象徴として君臨せねばならない。だが己はどうだ?身のうちを喰い荒らすような苦しみにのたうち回り、王子という外殻に歪められた臓腑は彼自身を苛み続ける枷である。
世界は十全ではない。
だから彼は、彼の扱う被検体は苦しみ、童話たる世界に争いごとが絶えず、白雪姫は消えた。
十全でさえあれば、あるいはそれらの苦痛は取り払われるのではないか?
全ての罪を女王が引き受け、全ての終わりを王子が引き受ける世界になり得るはずだったのではないか?
世界を十全にせねばならない。
苦痛なき幕引きのために。なれば彼は十全な王子でなければならないし、苦しみも悲しみも怒りも、そして片割れを頼り憎む想いも滅ぼさねばならない。
―――だいたいそんな感じで生きてみたはいいが、弟がナチュラル王子なので正直譲りたい。
「兄上!」
涼やかな声が回廊に響く。なんでこいつ王子機関のこと知ってるのにくっそ明るいねん、キチガイか、と彼は思った。たぶん、その表現でだいたい合っている。しかも天然の方だった。
最近彼はこうも思う。物語の人物はそれをそうとして認識し得るものなのか?
それは彼が「王子」であることと矛盾しない。弟もやはり王子であるからだ。彼が教え諭す役割であるとすれば、彼が十全に王子を務めあげることは不可能ではない―――彼自身がそうであるよりもずっと、「完成度」の高い王子に。なにせ彼の片割れは、世界の問いを未だ知らない。
しかし、
「どうした。何かあったのか?」
最早意識するまでもなく浮かぶ完璧な笑みを浮かべ片割れを振り向くと、
「いいえ、兄上を見かけたものですから、つい」
唯一の問題点を全力で前面に押し出してくるので、彼は王子を務め続ける他ないのだ。
「あ、ああ…そう…」
「はい!」
(こいつ恋とかできるのかな)
浮かぶ疑問は物語構造においてあまりに致命的で、故に彼は、十全な王子を務め続ける他の選択肢を未だ持たない。悲しいことに。
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