スキル、という概念はどうもこの土地に根付かぬまま流れ去ったようだ。
そう考えた直後首を振る。
そういう世界であったことこそが、本来は不自然であったのだと。





サルファが世界によって任じられていた「役目」には、冒険者へその経験によって依頼を組み上げるもの―――冒険者たちに怒りの燃える瞳で射抜かれる、損な役回りばかりではない。
「役割」そのものは、研究機関の講師であった。
だから彼の持つ「役目」は、それに沿ったものが充てられていたのだ。

たとえば、こんなふう。


―――せいッ!

鬨の声というのか、門外漢には判じられぬ気合いを持って獲物を振りかぶる男が二人。学術機関の内部にあるからには、学生同士ということに違いはあるまいが、素人目にも見事と認めるべき技術である。ふと見回せば、サルファと同様にその太刀裁きに見惚れている生徒がちらほらと修練場の周囲に存在している。
(ほう)
研究者の側面、つまり興味を覚えやすい自分を否定するつもりはない。サルファは自らにかつて任じられた能力を用いて、彼らが「何」であるかを眺めようとした。
だが、直ぐにその表情は僅かな驚きとともに歪む。


『ルーファスィール/種族:ダークエルフ/LV.93/傭兵・精霊術士』
『アーネスト・フォード/種族:屍人/LV.32/傭兵・祓術使い』


(濃いわ)
虚空にツッコミを入れたサルファの心境は渋い。改めてこの学術機関の異質な秩序を思い知ったともいう。
そして、
(なんという…無駄データ組み…)
と、頭を抱えたくなるのも彼にとっては已む無し、といったところである。元々は人間が効率重視で組んだ下位世界のサルファにとって、天賦や種族特徴を踏まえたうえでの職業選択や成長方向、スキル取得は常識といってよいものだ。サルファ自身も、触媒術の天賦を踏まえた符術<アルカナ>を用い、平均的な人間族のステータスを押し上げるような効率的成長を行っている。

だが、彼らはどうだ。
ダークエルフという呪術に適した肉体を持ちながら、傭兵という強靭さを必要とした職、さらには何故か他のエルフにこそ最も向いた精霊使い。
屍人の身で傭兵という選択は悪くないものの、屍人、傭兵とどちらにも全く向かない、使用の場所を選ぶことすら困難だろう祓術使い。

何がどうしてそうなった、と云わざるを得ない。

だが彼らの太刀筋といったらどうだ。
研究一辺倒―――という設定、を持たされたサルファにすら、感嘆を覚えさせる猛々しさ。それは自らの意志によって道を歩んできた、前を向いた者が故の芯の強さというものではないか。




それが生か、と、思う。

仮初めの生にたゆたう身で在った頃には判別すら出来なかったものが、その『データ』には色濃く映し出される。
それは過去であり、意志であり、望みであった。
見渡せば彼らと同じように、身に合わぬ望みを、小さすぎる夢を、要領の悪すぎる未来を歩むものばかりが溢れかえっている。

それを、ステータスランキング〈順位付け〉―――優劣をつけることに、何の意味があるだろう。

それは人の抱くものを、命を区別することと同義だ。



学ぶことが多いというのは、喜ばしいことなのかもしれない。
新緑の中響く金属音に耳を傾けながら、サルファはふと笑う。
ふいに、その音が途切れるまでは。

きゃああ、と黄色い女の叫び声で現在に引き戻されたサルファが目にしたのは、女たちの集う剣士2人の爽やかに汗をぬぐう姿と、取り残された周囲の見物客―――男たちのうらみがましい空気である。

(………区別することについては、ここでも同じなのか…?)

どうも、その判別手段は理解しがたい。
解けぬ命題を与えられた数学者の如き難しげな表情で、サルファは首を傾げた。




------------


イケメン2人はどう考えても勝ち組。
ヤンキーエルフとミステリアス傭兵とか勝ち組すぎた。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。